漫画「BECK」は好きだったけど

 

ハロルド作石の「BECK」という漫画がある。
これまでにない「バンド漫画」として大ヒットし、水嶋ヒロ主演で実写映画化もされたものだ。
私は、本屋で「BECK」というタイトルを見て、「あらあら、大胆なことする人いるなぁ」と思ったものだ。というのも、洋楽リスナーの間では、BECKといえばベック・ハンセンかジェフ・ベック、という方程式が存在するからである。

あれは単行本8巻くらいだっただろうか、友人がまとめて貸してくれたのでまとめて読んだ。
なるほど、いじめられっ子の主人公コユキが、ロックミュージックに出会い、帰国子女の天才ギタリスト・竜介を筆頭に後に五人体勢となるバンド・BECKのメンバーと交流し成長していく物語で、特に架空のロックフェス「グレイトフル・サウンド」初出演の話などはとても興奮して読んだ。もちろん、漫画は自分で買い直し、その後完結まで揃えた。

キャラクター達は個性的だし、BECKというバンドのケミストリもロックファンならニヤリとするような設定だ。また、日本のインディーバンドがどういった苦労をしているかも垣間見える。

しかし、どうも納得いかない部分もあるのだ。

細かいことだが、NYにいた竜介が当時を振り返り、「日本人で友達がいなかった俺に」云々と語ることが何度かあるのだが、いや、NYは人種のサラダボウルですから、友達がいないとしたらそりゃ竜介に問題があるんじゃないか。

作中の英語が間違っているのは「日本の漫画だから仕方ない」と片付けることもできるだろうが、竜介や妹の真帆、超人気バンド・通称ダイブリのメンバーがそれっぽく英語で話しているシーンを入れるなら何とかしろと思ってしまう。

また、洋楽リスナーとしては、コユキらがUKバンド山手線ゲームを始めた時、二週目くらいでコユキが「ホワイト・ストライプス」と答えるシーンには脱力した。まあ洋楽オタクからすれば、文句が出ない展開の方が難しいと思うが。

上に挙げた超人気バンド、ダイイング・ブリードのシンガー、マット・リードはスキンヘッドにサングラスという出で立ちで、暴力沙汰で裁判を起こされたり奇行が目立ったり、というちょっと前の「ロックスター・イメージ像」をそのまま描いたような人物である。名前と容姿が似ているのでマイケル・スタイプが元ネタとも言われているが、だいぶ違うと思うぞ。

物語の終盤で、そのマットが恋人と共にヘリから降りてきて、オーディエンスが「マットの彼女って誰だ?」と興奮するシーンがあるのだが、実は一緒にいたのは恋人ではなくコユキだった。
それに対してオーディエンスは「マットって両刀だったのか!」、「さすがアーティスト!」といったコメントをするのだが、これも古すぎる反応だろう(主に後者)。

個人的にはBECKのベース・平くんが「俺、カート・コバーンを崇拝してるんだ!」と語るシーンがあるのだが、「BECKの精神的支柱」と言われ、プレイスタイルはレッド・ホット・チリ・ペッパーズのフリーを模している彼が言うのは意外だと思った(個人の感想です)。

で、最大のつっこみどころ。

ファンの力を、完全に無視している点。

BECKは結成当初から、日本のロックシーンの大物を敵に回してしまい、様々な活動妨害や苦労を強いられる。
のだが、ライブバンドとして海外でも評価される実力を持つバンドである、固定ファンは必ずいるはずだし、全米ツアーから帰国して日本のライブハウスを拠点に活動し始めれば、新規ファンも必ず獲得できる(ましてコユキの声がああいう設定だし)。もっと言えば、竜介の昔からのファン、あるいは別バンドのサポートをしていた平くんにはやはりファンがつくと思うのだ。

もちろん、ファンがまったく描かれていないわけではない。
ヴォーカル・千葉は男性客に人気のようだったし、女好きの竜介には美麗なお姉さんが群がる。
肝心のコユキには、恋人・真帆が渡英してからファンの女の子が急接近してくるくだりもある。

でも、や、いやいや、違う。

ファンってもっと団結するし連携するし、SNSはなかったけどネットは普及していた時代だ、動く人間は少なくないと私は思う。
これを突き詰めると、きつい言い方になるが、

「リスナーの力を侮っている」

といった印象すら受けるのだ。
本編が面白いだけに、そして「バンドのリアリティ」を描こうとしている作品だけに残念でならない。

 

他にもツッコミどころはあるのだが、とりあえずここまで。

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